頭骸骨のマントラ

唯ねーねー

2008年03月28日 13:06

頭蓋骨のマントラ〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)


2年ほど前に読んだミステリ。
実は中沢新一の影響もあって、昔からチベット仏教には関心があり、これもその世界とミステリがどんな風に融合されているのかなぁ、という興味から読み始めた。

経済犯罪を摘発する捜査官として北京で活躍していた単道雲(シャン・タオユン)。政府高官の犯罪をあばこうとして逆に政治犯扱いされ、チベットの強制収容所送りに。身も心もボロボロになったシャンは、そこで出会ったチベット仏教の教えにより生きる力を取り戻す。そのシャンが政治犯の身分のまま、とある殺人事件の捜査をまかされ、そして……

確かにチベットの厳しい現状、中国の暗部、チベット仏教や道教の教えなど、ミステリとしてはかなりユニークな世界が展開している。トーンはとことん暗い。あんまり救いがない。でも最後まで読んでしまい、おまけにこのシリーズの連作「霊峰の血」「シルクロードの鬼神」まで買わせてしまうだけの力作。

で、全部読んでしまうとますますやりきれない気持ちになるけど、主人公の生き方になんとなく一筋の光明が見える気がするのは不思議でもある。

もちろんこの物語はフィクションだし、作者もまたある種の政治的バイアスのかかったものの見方をしていることは忘れてはいけないけど、このシリーズ読んだ後では、昨今のチベット問題に関して、 「ああやっぱり」と腑に落ちる点が多々あることも事実。

タイトルや表紙の雰囲気はおどろおどろしいけど、ホラー的要素はまったくなくて、硬派&社会派タッチの作品なので、そういうの好きな人にはお勧めです。

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